一人社長の会社では、顧客との電話、メール、オンライン会議、クラウド会計へのアクセスなど、日々の業務でスマートフォンやインターネットを利用します。
会社用の回線を契約することもあれば、設立前から使っている個人のスマホや自宅のネット回線を、そのまま仕事にも使うこともあるでしょう。
このとき、「個人契約だから会社の経費にできない」「仕事にも使うから全額を会社が払ってよい」と、契約名義だけで判断しないことが大切です。
この記事では、一人社長法人を想定して、通信費の会社負担、私用との区分、請求書の取得、毎月の精算方法を整理します。
通信費は、契約名義と実際の使い方を確認する
まず、どの回線を何のために使っているかを書き出してみましょう。
・会社の事務所で使うインターネット回線
・顧客対応や営業に使うスマホの回線
・外出先で業務用パソコンを接続するモバイル回線
・自宅で仕事と私用の両方に使うネット回線
会社の業務に必要な通信費は、会社の費用として検討できます。ただし、法人契約であっても私用が含まれる場合は、会社が負担する範囲を確認します。
反対に、個人契約だからという理由だけで、業務利用部分を会社と精算できなくなるわけではありません。契約者、利用目的、料金の内訳、支払者を対応させて整理しましょう。
個人のスマホを仕事にも使う場合
個人のスマホで顧客と電話をしたり、仕事のメールを確認したりする場合は、私用と業務用が一つの請求に含まれます。
通話料と、基本料金・データ通信料は分けて確認すると整理しやすくなります。通話ごとに料金が発生する場合は、明細から業務上の通話を確認できます。
定額の基本料金や通信料は、仕事で使ったという事実だけで全額を会社負担にせず、業務利用分を合理的に計算します。国税庁の在宅勤務に関するFAQでも、通話料の実費確認と、基本料金等の業務利用分の合理的な計算が示されています。[1]
このFAQは従業員の在宅勤務に関する源泉所得税の資料です。一人社長の会社では、その考え方を参考にしつつ、役員としての利用実態や負担方法に応じて確認します。
例えば、仕事のために使っている時間帯、通話の相手、業務用アプリの利用状況などを把握して、計算方法を決めます。「一人社長なら一律50%」という共通の基準があるわけではありません。
利用状況が変わったときは、会社負担の考え方も見直しましょう。
会社用の回線を分けると、確認の手間を減らせる
仕事の電話が増えてきたら、会社用の回線を分ける方法も考えられます。
会社用の電話番号と請求を分けると、顧客対応の費用と個人の費用を区別しやすくなります。私用との切り分けや、月々の精算の負担も減らせます。
回線を分けることと、端末を二台持つことは、必ずしも同じではありません。対応する端末・サービスでは、一台に二つの回線を設定する方法もあります。利用条件や請求の取得方法を確認して選びましょう。
ただし、会社用の回線を用意した場合も、誰が契約・支払いを行うか、私的な利用がある場合はどう扱うかを決めます。会社用という名称だけで、利用実態の確認が不要になるわけではありません。
自宅のネット回線を仕事にも使う場合
自宅でオンライン面談や資料作成を行う場合、家庭用のネット回線を業務にも使うことがあります。
この場合は、社長の業務利用に加え、本人の私的な利用や家族の利用も含まれるかを確認します。家庭全体の料金を、理由なく会社へ付け替えないようにしましょう。
会社が負担する範囲を決める際には、在宅で仕事をする日数や時間、業務内容などを整理します。計算方法とその根拠をメモにしておくと、毎月の処理を続けやすくなります。
使用料が定額であることと、全額が業務用であることは別の話です。一方、業務専用として設けた回線であれば、契約目的や設置場所、実際の使い方を確認して判断します。
個人契約の料金は、請求書と精算記録を残す
社長が個人で支払った業務分を会社と精算する場合は、元の請求と会社の負担額が分かるようにします。
毎月、次の情報を残しましょう。
・通信会社、対象の回線、利用月
・請求額と料金の内訳
・個人の支払記録
・会社が負担する金額と計算方法
・会社から社長へ精算した日と金額
例えば、会社負担分として整理した2,000円を社長が立て替えていた場合、会社では通信費と社長への未精算額を記録します。会社から2,000円を返すときは、その未精算額を減らします。
支払いと精算の両方で通信費を計上すると二重になるため、社長への返金を新しい経費として登録しないようにしましょう。
精算書に請求書等を対応させ、毎月決まった日に確認・精算する流れにすると、未精算額を把握しやすくなります。
定額の手当と、業務利用分の精算は分けて考える
「通信費として毎月一定額を渡す」方法は、実際の請求に基づく精算と同じとは限りません。名称を通信費にしても、支給内容によっては給与として扱う必要があります。[1]
役員について給与に当たる場合は、源泉所得税だけでなく、会社側の役員給与の損金算入要件も確認します。[2]
日々の業務費用を精算したい場合は、実際の請求額と業務負担分を確認できる資料を残し、余分に支払った分の扱いも決めます。毎月の処理を簡単にするためのルールと、根拠なく定額を支給することを分けましょう。
通信料金と、スマホ本体の購入代金は分ける
通信会社の請求には、基本料金・通信料のほか、スマホ本体の分割払い、補償、オプションサービス等が含まれることがあります。
合計額をすべて通信費として登録する前に、内訳を確認しましょう。業務と関係のないサービスが含まれていれば、会社負担の対象かを別に判断します。
会社がスマホを購入して業務用として管理する場合、本体は取得価額などに応じて、消耗品費や固定資産としての処理を検討します。分割払いだから毎月の支払額をそのまま通信費にする、という整理にはしません。[3]
また、社長が私的に所有する端末の購入代金を会社が負担する場合は、通常の通信料の立替精算と同じように扱わず、所有関係や給与に当たるかを確認します。[1]
カード明細だけでなく、通信会社の請求内訳を確認する
クラウド会計へカードや銀行口座を連携していると、通信会社への支払いを確認しやすくなります。
ただし、連携明細には「通信会社・合計金額」しか表示されず、回線ごとの料金や端末代が分からない場合があります。請求内訳を取得して、会計データと対応させましょう。
通信会社のマイページで電子の請求書等を取得した場合は、その電子データを保存します。[4]
毎月の取得日を決め、未取得の請求書がないか確認する方法が考えられます。複数の回線を一つの請求で支払っている場合は、各回線の用途も整理します。
個人名義の通信費で、会社が仕入税額控除を受けるには?
消費税を原則課税で計算する法人では、会社の経費にできるかという判断に加え、仕入税額控除の要件を確認します。原則として、所定の事項を記載した帳簿と適格請求書等の保存が必要です。[5]
社長個人宛てのインボイスを会社で保存するだけで、会社の仕入れに係るインボイスになるわけではありません。国税庁のインボイスQ&A問94「立替金」は、立替金精算書等により、元の取引が精算を受ける会社の課税仕入れであることを明らかにする取扱いを説明しています。根拠として消費税法基本通達11-6-2が挙げられています。[6]
この取扱いを個人名義の通信費の業務利用分の精算に用いる場合は、実際に会社の業務に必要な通信サービスを社長が立替払いしていることを確認します。私的な料金を会社が負担しただけの場合や、通信手当を給与として支給する場合とは区別します。
### 保存する書類と確認事項
・通信会社が発行した適格請求書等:発行者の名称・登録番号、取引年月日、通信サービスの内容、税率ごとの対価の額・適用税率・消費税額等、宛名などの必要事項を確認します。請求書と利用明細を合わせて要件を満たす場合は、両方を対応させて保存します。[5]
・立替金精算書等:個人宛ての請求のうち、会社の課税仕入れとして精算する部分が分かるようにします。[6]
・会社の帳簿:仕入先である通信会社、取引年月日、サービスの内容、会社の業務利用分の金額などを記録します。社長への返金日・返金額だけの記録で終わらせないようにします。[5]
社長自身がインボイス発行事業者として登録している必要はありません。立替精算の対象となる元の通信サービスの提供者が適格請求書発行事業者であるかを確認します。[6]
### 精算書には、何を記載する?
実務では、精算先の会社名、立替者である社長の氏名、通信会社、契約回線、利用月、請求書の番号等、請求総額、会社の業務利用分と計算根拠、精算額・精算日を記載すると、元のインボイスとの対応を確認しやすくなります。これは本記事の記載例であり、全項目が一律に法定の記載事項という意味ではありません。
例えば、通信料金が税込5,500円で、利用実態に基づき会社の業務利用分を40%と整理できる場合、精算書には「請求額5,500円、業務利用割合40%、会社負担額2,200円」と計算根拠を残します。私用分3,300円を会社の課税仕入れに含めません。40%は説明のための例であり、共通の認定割合ではありません。
会社負担額の全額が同一税率の課税通信料金であることも確認します。端末代、非課税の項目、私用サービス等が混在する請求では、合計額に割合を掛ける前に内訳を整理します。
「会社が払った」「個人名義でも領収書がある」というだけで判断せず、元のインボイスと会社の業務利用分を示す精算資料をひとまとまりで保存しましょう。少額特例など帳簿のみで控除できる例外を適用する場合は、その要件を別途確認します。[5][6]
一人社長の通信費は、回線ごとにルールを決める
最初に、回線ごとの契約名義、用途、支払方法、請求書の取得先を整理しましょう。
・会社専用の回線は、会社がどう支払い・管理するかを決める。
・仕事と私用が混ざる回線は、会社負担分の計算方法を決める。
・個人が支払った業務分は、請求書と精算記録を対応させる。
・端末代やオプションは、通信料金と分けて確認する。
・毎月、請求データの取得と会計入力・精算を行う。
新星パートナーズ会計事務所の「つばめバックオフィス」「ふくろうクラウド顧問」では、クラウド会計を利用する法人の会計・税務を支援しています。通信費の会社負担や立替精算も、契約内容と実際の利用状況に合わせて整理します。
まとめ
一人社長の通信費は、法人契約か個人契約かだけでなく、会社の業務にどう使っているかを確認します。
私用と業務用が混ざる場合は、会社の負担額を説明できる方法で整理し、元の請求書と精算記録を残しましょう。
まずは、使っているスマホやネット回線を一覧にし、誰が契約し、誰が払い、何に使っているかを確認してみるとよいでしょう。
関連サービス
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出典・参考資料
[1] 国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」問1・5・6・7:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf
[2] 国税庁 No.5211「役員に対する給与」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
[3] 国税庁 No.5403「少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5403.htm
[4] 国税庁「電子帳簿保存」:https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/week/dennsityoubo.htm
[5] 国税庁 No.6496「仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6496.htm
[6] 国税庁「適格請求書等保存方式に関するQ&A」(令和8年5月改訂)問94「立替金」・消費税法基本通達11-6-2:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf
※本記事は一般的な情報を提供するものです。実際の取扱いは、契約内容、利用状況、負担・精算方法、法人の状況によって異なります。
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初回相談では、依頼範囲・料金・開始時期をご案内します。個別の税務判断・税額計算・申告内容の確認は対象外です。
新星パートナーズ会計事務所
代表・税理士 井河 伸郎
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