1人社長の会社では、会社で使用する文房具や消耗品などを、社長個人の現金やクレジットカードで支払うことがあります。
このような社長の立替経費は、会社の経費として計上するとともに、会社が社長へ支払うべき金額として記録します。
現在のクラウド会計には、領収書を撮影またはアップロードすると、AI-OCRが日付や金額などを読み取り、取引や仕訳の候補を作成する機能があります。
この記事では、1人社長が立て替えた経費を、freee会計とマネーフォワード クラウド会計で仕訳として登録する基本的な方法を解説します。
両サービスで登録が完了するまでの操作数や、自動化できた項目については、同じ店舗の領収書を使って実際に測定しました。詳しくは、「1人社長の立替経費をAI-OCRで仕訳登録|freeeとマネーフォワードを実測比較」で紹介しています。
社長立替経費とは
社長立替経費とは、会社が負担すべき費用を、社長が個人のお金で一時的に支払ったものです。
例えば、会社で使用する消耗品1,100円を、社長が個人の現金で購入した場合が該当します。
一般的には、次のように役員借入金を使用して処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 1,100円 | 役員借入金 | 1,100円 |
「役員借入金」は、会社が役員から借りている金額を表す勘定科目です。
社長が会社の経費を個人のお金で支払うと、会社から見れば、社長からその金額を一時的に借りた状態になります。そのため、現金や普通預金ではなく、役員借入金で処理します。
未払金として処理する場合もある
会社の会計処理の方針によっては、社長へ支払うべき立替経費を「未払金」として処理することもあります。
この場合の仕訳は、次のようになります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 1,100円 | 未払金 | 1,100円 |
役員借入金と未払金のどちらを使用するかは、会社の会計処理の方針や、立替経費の管理方法によって異なります。
大切なのは、社長個人による立替払いについて使用する勘定科目を決め、継続して同じ方法で処理することです。
本記事では、freeeとマネーフォワードの比較条件を統一するため、社長立替経費を役員借入金で処理する場合を例に説明します。
会社から社長へ返金したときの仕訳
後日、会社の預金口座から社長へ1,100円を返した場合は、次のように役員借入金を減らします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員借入金 | 1,100円 | 普通預金 | 1,100円 |
立替経費を未払金で計上していた場合は、借方を未払金として処理します。
社長へ返金したにもかかわらず、この精算仕訳を登録しないと、役員借入金や未払金が帳簿上に残ってしまいます。経費の計上と返金は、それぞれ分けて記録する必要があります。
AI-OCRを利用すると何が省略できるのか
AI-OCRは、領収書や請求書の画像から文字情報を読み取る機能です。
クラウド会計へ領収書をアップロードすると、主に次のような情報が読み取られます。
- 取引日
- 支払先
- 金額
- 消費税額
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 書類の種類
読み取った情報をもとに、勘定科目や税区分を含む取引・仕訳の候補が作成されます。
手作業で日付や金額を入力する負担を減らせることが、AI-OCRを利用する大きなメリットです。
ただし、AI-OCRが読み取った内容が常に正しいとは限りません。画像の状態や領収書の形式によっては、日付、金額、支払先などを誤って認識することがあります。
また、領収書だけでは、それが会社のお金で支払われたのか、社長が個人のお金で立て替えたのかまでは判断できない場合があります。
したがって、AI-OCRは仕訳登録を完全に任せる機能ではなく、入力作業を補助する機能として利用するのが基本です。
freee会計で社長立替経費を登録する方法
freee会計では、領収書をファイルボックスへ取り込み、読み取られた内容を確認して取引を登録します。
基本的な流れは次のとおりです。
1.領収書をファイルボックスへ取り込む
「取引入力」から「ファイルボックス」を開き、領収書の画像またはPDFをアップロードします。
スマートフォンのfreeeアプリで領収書を撮影し、ファイルボックスへ保存する方法もあります。
2.AI-OCRの読取結果を確認する
解析が完了した領収書を開き、取引日、金額、支払先、勘定科目、税区分などを確認します。
内容が誤っている場合は、正しい情報へ修正します。
同じ領収書の中に消費税率10%と軽減税率8%の商品が含まれている場合などは、必要に応じて明細を分けて登録します。
3.支払方法を選択する
freeeの「かんたん入力」では、実際の支払状況に応じて支払方法を選択できます。
社長が個人のお金で支払った領収書は、「経営者が立て替えた」を選択します。
この選択によって、適切な決済状況と口座が設定されます。法人の場合は、「役員資金」口座から支出した取引として登録され、その結果が役員借入金として帳簿へ反映されます。
個人の現金、個人名義の預金口座、個人のクレジットカード、個人の電子マネーなど、実際の決済手段が異なっていても、会社のお金ではなく社長個人のお金で支払った場合は、社長立替として処理します。
会社で未払金を使用する方針の場合は、その方針に合った決済状況や口座を設定する必要があります。
4.取引を登録する
取引日、金額、勘定科目、税区分、支払方法などを確認し、「取引登録」を実行します。
これにより、経費の計上と役員借入金の記録が行われ、領収書も取引に添付された状態になります。
5.ファイルの登録ルールを活用する
同じ取引先から同じような内容の領収書を繰り返し受け取る場合は、ファイルの登録ルールを利用できます。
登録ルールには、取引先、勘定科目、税区分、品目、支払方法などを設定できます。
ルールの処理方法を「取引を推測する」にしている場合は、条件に一致する内容が入力候補として表示されます。内容を確認し、問題がなければ取引を登録します。
処理方法を「取引を登録する」に変更すると、条件に一致する領収書をファイルボックスへアップロードした後、取引を自動登録することもできます。
ただし、自動登録を利用する場合も、次の点に注意が必要です。
- 登録ルールの条件に一致しない領収書は自動登録されない
- 金額や取引内容が通常と異なっていないか確認する
- 適切な勘定科目や税区分が設定されているか確認する
- 自動登録後も、登録された取引を定期的に確認する
- 登録ルールの設定内容が現在の取引に合っているか見直す
繰り返し発生する取引では、登録ルールによって操作を大きく減らせる可能性があります。
マネーフォワード クラウド会計で社長立替経費を登録する方法
マネーフォワード クラウド会計では、「AI-OCRから入力」機能を利用して、領収書から仕訳候補を作成できます。
基本的な流れは次のとおりです。
1.「AI-OCRから入力」を開く
「自動で仕訳」から「AI-OCRから入力」を開き、領収書の画像またはPDFをアップロードします。
マネーフォワード クラウドBoxへ保存した証憑を利用することもできます。
2.証憑に関する情報を設定する
アップロード時には、領収書などの書類種別や、電子帳簿保存法上の区分を確認します。
紙で受け取った領収書をスキャンまたは撮影した場合と、メールなどで電子データとして受け取った場合では、保存区分が異なります。実際の受領方法に合った区分を選択します。
3.AI-OCRが作成した仕訳候補を確認する
アップロードした領収書から、取引日、金額、勘定科目などを含む仕訳候補が作成されます。
領収書の画像と仕訳候補を照合し、読み取られた内容が正しいか確認します。
4.社長立替の仕訳へ修正する
社長が個人のお金で支払った場合は、貸方科目が役員借入金となるように仕訳候補を確認・修正します。
会社の会計方針として未払金を使用している場合は、貸方科目を未払金とします。
借方には、消耗品費、旅費交通費、会議費など、支出内容に対応する経費科目を設定します。
あわせて、税区分、適格請求書発行事業者に関する情報、取引先、摘要なども確認します。
5.必要に応じて自動仕訳ルールとして保存する
同じ取引先から同じような支出が繰り返し発生する場合は、修正した内容を自動仕訳ルールとして保存できます。
今回の実測では、1枚目の領収書を登録するときに自動仕訳ルールを保存したところ、2枚目の領収書には次の内容が反映されました。
- 借方科目
- 取引日
- 金額
- 税区分
- 取引先
- 備考
取引先や備考などを入力し直す必要がなくなるため、同じ取引先の領収書を繰り返し登録する場合には、入力作業を減らせます。
ただし、今回の検証では、1枚目で貸方を役員借入金へ修正して自動仕訳ルールを保存しても、2枚目の貸方には引き継がれず、現金として登録されました。
自動仕訳ルールが適用されていても、社長立替に対応する役員借入金または未払金になっているとは限りません。登録前に、借方だけでなく貸方も確認する必要があります。
6.仕訳を登録する
仕訳候補に問題がなければ、「登録」を実行します。
仕訳の登録と領収書の添付がまとめて行われます。
マネーフォワードでは、借方科目と貸方科目が仕訳の形で表示されます。自動仕訳ルールが適用された場合も、貸方が役員借入金または未払金になっているかを確認してから登録することが重要です。
自動仕訳ルールで実際に引き継がれた項目と、修正が必要だった項目については、「1人社長の立替経費をAI-OCRで仕訳登録|freeeとマネーフォワードを実測比較」で詳しく紹介しています。
登録前に確認したい項目
freeeとマネーフォワードのどちらを利用する場合でも、登録前に少なくとも次の項目を確認しましょう。
取引日
原則として、領収書に記載された商品やサービスの購入日を確認します。
OCRが発行日、利用日、精算日などを誤って読み取っていないか注意が必要です。
金額
領収書の合計額と、読み取られた金額が一致しているか確認します。
複数の税率や値引きが含まれる領収書では、読取結果を特に注意して確認します。
勘定科目
購入した内容に合った経費科目になっているか確認します。
AI-OCRや自動提案による勘定科目は候補であり、最終的な判断は利用者が行う必要があります。
貸方科目または支払方法
社長個人のお金で支払ったにもかかわらず、会社の現金や普通預金から支払った処理になっていないか確認します。
社長立替の場合は、会社で採用している会計処理に従い、役員借入金または未払金として記録されることを確認します。
自動仕訳ルールが適用されている場合も、貸方科目まで正しく設定されているとは限らないため、登録前の確認が必要です。
消費税区分とインボイス情報
消費税の課税事業者は、税率、税区分、適格請求書への該当状況なども確認する必要があります。
領収書に記載された登録番号が正しく読み取られているか、仕入税額控除の取扱いが適切かも確認します。
証憑の添付
登録後は、仕訳や取引に正しい領収書が添付されているか確認します。
別の領収書が添付されていたり、同じ領収書を二重に登録したりしないよう注意が必要です。
立替経費を長期間精算しない場合の注意点
社長立替経費を登録すると、役員借入金または未払金の残高が増加します。
これらの残高があること自体が、直ちに問題になるわけではありません。しかし、立替経費を長期間精算しないと、会社が社長へ支払うべき金額が積み上がり、残高の内容が分かりにくくなります。
1人社長の会社でも、次のような運用を決めておくと管理しやすくなります。
- 社長立替経費を毎月決まった日までに登録する
- 登録した立替額を月単位で確認する
- 会社から社長へ返金したときは精算仕訳を登録する
- 役員借入金または未払金の残高を定期的に確認する
- 同じ領収書を重複して登録しない
社長個人と会社のお金をできるだけ分け、会社の支払いには法人名義の預金口座やクレジットカードを利用することも大切です。
freeeとマネーフォワードでは自動化の仕組みが異なる
freeeでは、「経営者が立て替えた」という実際の支払状況を選択し、その内容から会計処理へつなげます。
また、ファイルの登録ルールを利用すると、条件に一致する領収書について、支払方法、取引先、品目などを引き継ぐことができます。ルールの処理方法を「取引を登録する」に変更すると、領収書のアップロードによって取引を自動登録することもできます。
一方、マネーフォワードでは、AI-OCRによって作成された仕訳候補を確認し、必要に応じて修正して登録します。
マネーフォワードでも自動仕訳ルールを利用でき、今回の検証では、借方科目、税区分、取引先、備考などが次の領収書へ引き継がれました。
ただし、1枚目で貸方を役員借入金へ修正してルールを保存しても、今回の2枚目では貸方が現金になりました。自動仕訳ルールが適用されていても、すべての項目が希望どおりに引き継がれるとは限りません。
両サービスとも、繰り返し発生する取引の入力を効率化する機能がありますが、自動化の仕組みと、登録前に確認すべき項目には違いがあります。
実際の領収書で操作数と自動仕訳ルールを比較
この記事の公開後、同じ店舗で購入した2枚の領収書を使い、freeeとマネーフォワードで社長立替経費を登録しました。
検証では、AI-OCRの読取結果だけでなく、正しい仕訳として登録するまでのクリック数、文字入力、自動化された項目も確認しました。
主な結果は次のとおりです。
- freeeでは、ファイル登録ルールによって支払方法、取引先、品目が引き継がれた
- freeeのルールを「取引を登録する」に変更すると、領収書のアップロードによって取引を自動登録できた
- マネーフォワードでも、自動仕訳ルールによって借方科目、税区分、取引先、備考などが引き継がれた
- マネーフォワードでは、今回の検証で貸方が現金となり、役員借入金への修正が必要だった
- 今回の条件では、正しい仕訳を登録するまでの操作数はfreeeの方が少なかった
詳しい操作内容と比較結果は、「1人社長の立替経費をAI-OCRで仕訳登録|freeeとマネーフォワードを実測比較」をご覧ください。
今回の結果は、特定の領収書と検証用アカウントで確認したものです。自動仕訳ルールの適用結果は、取引内容、登録済みのルール、勘定科目、設定、サービスの更新などによって異なる場合があります。
まとめ
社長が会社の経費を個人のお金で支払った場合は、会社の経費を計上するとともに、役員借入金または未払金として記録します。
freeeでは、支払方法として「経営者が立て替えた」を選択し、社長立替の取引として登録できます。ファイルの登録ルールを利用すると、同じ取引先の領収書について、支払方法、取引先、品目などを引き継ぎ、自動登録することもできます。
マネーフォワードでは、AI-OCRが作成した仕訳候補を確認し、貸方を役員借入金または未払金へ修正して登録します。自動仕訳ルールを利用すれば、借方科目、税区分、取引先、備考などを次の仕訳候補へ引き継げます。
ただし、今回の実測では、マネーフォワードの貸方は役員借入金として引き継がれず、現金になりました。自動仕訳ルールが適用されていても、登録前に借方、貸方、税区分、取引先、金額などを確認する必要があります。
AI-OCRや登録ルールは入力作業を軽くするための機能です。仕訳や税務上の正しさを保証するものではないため、会社の会計処理方針に沿って、人が最終確認を行うことが大切です。
両サービスの操作数、自動化された項目、登録時の注意点は、「1人社長の立替経費をAI-OCRで仕訳登録|freeeとマネーフォワードを実測比較」で詳しく紹介しています。
※本記事は2026年9月13日時点の情報をもとに作成しています。各サービスの画面、機能、料金および利用条件は変更される場合があります。また、実際に使用する勘定科目や税務上の取扱いは、取引内容や会社の状況によって異なります。
新星パートナーズ会計事務所
代表・税理士 井河 伸郎
税務・会計に関する記事は、専門家の立場から内容を確認しています。
本記事は、一般的な情報の提供を目的としています。個別の取引や税務上の取扱いについては、契約内容や事実関係によって判断が異なる場合があります。また、掲載内容は記事作成時点の情報に基づいています。最新の情報は、各サービスの公式サイトや関係機関の公表資料をご確認ください。

