生成AIは、調べものや文章作成、業務手順の整理を速くする便利な道具です。一方、会計事務所が扱う資料には、顧客の決算数値、取引先名、口座情報、給与情報など、外部に出してはいけない情報が多く含まれます。
大切なのは、生成AIを使うか使わないかの二択ではありません。入力してよい情報を限定し、出力を人が確認し、外部への送信や申告などの重要な操作は人が承認することです。
最終確認日:2026年8月14日
会計事務所の生成AI利用で注意したい5つのリスク
1.顧客情報・機密情報の漏えい
入力した内容がどのように保存・利用されるかは、サービスや契約プラン、設定によって異なります。承認されていないAIサービスへ、顧客を特定できる情報や申告書・総勘定元帳などをそのまま入力してはいけません。
2.誤った回答や古い制度情報
生成AIは、もっともらしい誤情報を出すことがあります。税率、期限、適用要件などは、国税庁や法令などの一次情報で確認し、税務判断は税理士が行う必要があります。
3.過大な権限による誤操作
APIやMCPなどでAIを会計ソフトや外部サービスにつなぐと、閲覧だけでなく登録・変更・削除・送信まで可能になる場合があります。便利さと同時に、誤操作の影響範囲も大きくなります。
4.不正な指示を含むファイルやウェブページ
AIが読み込んだ文書やウェブページに、不正な命令が埋め込まれている可能性があります。外部資料を読ませた結果をそのまま信用せず、アクセス範囲と実行権限を限定します。
5.責任の所在が曖昧になること
「AIが判断したから」では、顧客への説明責任を果たせません。誰が入力し、誰が確認し、誰が最終承認したかを追える運用が必要です。
AIに入力しない情報と、条件付きで扱う情報
| 区分 | 情報の例 | 取扱い |
|---|---|---|
| 原則入力しない | マイナンバー、パスワード、認証コード、APIキー、e-Tax等の認証情報 | AIへ入力しない |
| 原則入力しない | 顧客名入りの申告書・元帳・契約書、口座情報、給与・人事情報 | 承認のないAIへ原本を入力しない |
| 条件付き | 匿名化した取引例、必要部分だけ抜粋した資料、仮の数値 | 承認済み環境で、利用目的に必要な最小限だけ扱う |
| 比較的扱いやすい | 公開済み法令、官公庁の公開資料、顧客情報を含まないひな形 | 出典と更新日を確認して利用する |
氏名を「A社」に置き換えるだけでは不十分な場合があります。所在地、取引内容、金額、日付などの組み合わせから特定できないよう、必要に応じて仮名化・概算化し、入力範囲を小さくします。
導入前に決めておきたい運用ルール
- 承認済みのサービスとアカウントだけを使う
- 入力データの学習利用、保存期間、保存場所、削除方法、管理者権限を確認する
- 利用者とアクセス権限を業務上必要な範囲に限定する
- ファイル全体ではなく、必要な箇所だけを入力する
- 入力内容、出力内容、確認者、修正内容を記録できる状態にする
- 誤送信や情報漏えいが疑われる場合の報告先と初動手順を決める
必ず人が最終確認する業務
生成AIの出力は完成品ではなく、確認前の候補です。特に次の業務は、専門知識を持つ担当者が根拠資料と照合します。
- 税務上の結論、適用要件、税額や期限の判断
- 仕訳候補、勘定科目、消費税区分の確定
- 申告書、届出書、給与・年末調整に関する処理
- 顧客への回答、メール、契約書などの外部文書
- 会計ソフトや業務システムへの登録・変更・削除
申告、納付、振込、外部送信、公開、削除など取り消しが難しい操作は、AIに自動実行させず、担当者とは別の承認者を置く運用が安全です。
比較的安全に始めやすい活用例
- 公開されている法令や官公庁資料の要点整理
- 顧客情報を除いたチェックリストや業務手順の作成
- 匿名化した条件を使った説明文のたたき台作成
- 面談で確認すべき事項や検索キーワードの整理
- 仕訳候補や確認事項の抽出(確定は担当者が行う)
AIの効果は、専門家を置き換えることではありません。資料整理や候補作成にかかる時間を減らし、人が例外処理、税務判断、顧客への説明に集中できる状態をつくることにあります。
AIエージェント・MCP・APIを使う場合の追加ルール
MCPやAPIを使うと、AIが会計ソフトなどから情報を取得したり、処理を実行したりできます。その場合は、通常のチャット利用より厳しい権限管理が必要です。
- まず読み取り専用で試す
- 接続先、対象会社、期間、データ種類を限定する
- 本番データとは分けたテスト環境で検証する
- 登録・変更・削除・送信は実行前に内容を表示する
- 重要操作は人の明示的な承認がなければ実行できないようにする
- 操作ログを残し、権限をすぐ停止できるようにする
「接続できること」と「自動実行させてよいこと」は別です。必要最小限の権限から始め、確認できた用途だけを段階的に広げます。
新星パートナーズの考え方
新星パートナーズでは、生成AIを情報整理、候補作成、確認作業の補助として位置づけます。顧客情報の取扱いを限定し、税務判断と最終確認の責任は税理士・担当者が負います。
業務データを保存しないAIエージェント専用PC
PC内のファイル等を操作できるAIエージェント(Claude Work、Claude Code、ChatGPT Work、Codex)を利用する場合、AIエージェントの安全機能だけには依存しません。情報漏えいやデータ消失を防ぐため、業務データを一切保存していないAIエージェント専用PCを使用しています。
クラウド会計システムは専用IDで操作
AIエージェントでクラウド会計システムを操作する場合は、通常の担当者IDとは分けたAIエージェント専用IDを使用します。これにより、AIエージェントが閲覧・登録・変更した範囲を操作履歴から判別できるようにしています。
目指すのはAI任せの会計ではありません。定型作業を効率化し、数字を早く確認できる状態をつくり、経営者と専門家が判断や対話に使える時間を増やすことです。
まとめ
会計事務所が生成AIを安全に使うための基本は、入力制限、最小権限、人による確認、重要操作の承認です。ツール名だけで安全性を判断せず、契約条件と設定、実際の業務フローをセットで確認しましょう。
参考資料
新星パートナーズ会計事務所
代表・税理士 井河 伸郎
税務・会計に関する記事は、専門家の立場から内容を確認しています。
本記事は、一般的な情報の提供を目的としています。個別の取引や税務上の取扱いについては、契約内容や事実関係によって判断が異なる場合があります。また、掲載内容は記事作成時点の情報に基づいています。最新の情報は、各サービスの公式サイトや関係機関の公表資料をご確認ください。

